1. ホーム
  2. /
  3. [ COLUMN ] Vol.5 世の中の体温をあげるひと 第1回

世の中の体温をあげるひと 第1回:

鹿児島市社会福祉施設しょうぶ学園
園生&スタッフのみなさん



もやもやとした感情

靴をはき、玄関を出る。せまい道路を疾走していく車を避けつつも、器用に端っこを歩いていく。通学する子どもたちの笑顔をぼーっと眺めながら、その向こうに見える新しく開店したカフェに寄り道しよう、と思いつく。赤信号が青信号に変わる。その瞬間、大きな声で、笑っているのか、怒っているのか、はたまた泣きたいのか分からないけれど、叫びながら車イスに乗っている20代の女性があちらからやってくる。なんとなく、無意識だったわたしの頭が覚めていく。後ろには、お母さんらしき人が車イスを、通り過ぎていく人たちの目線を突っぱねながら、必死に押していく。笑顔である。
きっと、自閉症かなにか、障害を持った娘さんなのだろう。どういう風に顔を彼女に向ければ良いのか、分からない。「不憫」なのか、「応援」なのか、いや、それも何かおかしい、もやもやした感情が、彼女の声が消えるまで、心の中にうずを巻く。そして、私は、そんなことをすっかり忘れて、10分後には、カフェでお茶を飲んでいる。

こんな行動が、今までの私の日常でした。障害をもった方へどういう付き合い方が一番良いのか、考える機会を与えられないまま育ち、大人になってしまったのかもしれません。
そんな私に、決して授業や本ではなく、諭しでもなく、「なんだ、障害者の人たちって、めっちゃカッコイイじゃないか!」と心底思わせてくれた人たちが、鹿児島にある障害者福祉施設、しょうぶ学園の園生であり、スタッフであり、園長の福森伸さん、奥様の順子さんです。

nui projectのシャツについて説明する福森順子さん
nui projectのシャツについて説明する福森順子さん

1年ほど前に、雑誌をペラペラとめくっていると、アジアの伝統工芸の作品にまぎれて、しょうぶ学園のnui projectで制作されている、一枚の服が紹介されていました。無数の刺繍が多方に向かっていき、ぶつかっていく。あふれだす生命力をもち、「迷い」を知らない、生き物のような作品でありながら、ほんの少しのデザイン(編集)も加えられたその服を見て、私の心はショートしたような気持ちになりました。きっとどこかの国の、伝統工芸なのか、はたまた著名な現代アーティストなのか。そう想像しながら、クレジットを見ると、そこには「しょうぶ学園」の文字が。一体どういうことなんだろう、と調べ始めたのがきっかけでした。


境目はどこにある?

VEGANIEの商品は、商品であり作品ではありません。つまり、商品には、デザインや意図、編集があり、日本のマーケットに合わせた調整が少なからず行われています。ただ元をたどるとカンタ刺繍も、ジャムダニも、商品化するためにデザインされたものではなく、純粋に刺繍や織りの美しさを競い合い、思い思いに、もしくは何かに焦がれて描くところから始まった、芸術に近いものであることを考えると、しょうぶ学園の園生が「行動」や「癖」から作リ出す作品に、共通項を見出すことができるのではないか、と感じ、しょうぶ学園の現場を見たい衝動にかられ、鹿児島へ向かいました。

お蕎麦屋さん凡太の絶品蕎麦と出汁巻き卵 お蕎麦屋さん凡太の絶品蕎麦と出汁巻き卵


しょうぶ学園には、お蕎麦屋さんがあり、イタリアンレストランがあり、パン屋さんがあります。しかもどのお店もいつも満杯で、素材が良く、味がとっても美味しい。どのレストランにも、健常者の職員と、障害を持った園生が、スタッフとしてそれぞれの持ち味を活かした役割を担い、運営を行っています。就業トレーニングと言えば、一言で終わりますが、トレーニングという言葉が似つかわしくないほど、都内のどの蕎麦屋さんにも劣らないサービスと味を提供してくれるのです。

園生の作業場に行けば、縫い針で糸を延々と縫い続ける女性もいれば、トンカチで厚い木版に傷をつけていく人、あるいは土の塊をドンドンと鳴らしながら粘土板にぶつけて、何かを作っていく人。それぞれが強制ではなく、自分にとって、偽りのない、心地よい行動を続けていく、そこで職員がバトンタッチを行い、デザインを加え、商品にしていく。「意図していないもの」と「意図しているもの」のギリギリのバランスが、今までに見たことのないものづくりを生み出しているのだと感じました。 「やってはいけない」「あれはできない」という壁にいつの間にか囲まれて生きてきた私は、忘れていたクリエーションの楽しさの原点をまざまざと見せつけられたのです。そこで私は改めて、「なんて自由でロックなんだろう。くやしい。」と思いました。彼らは、生まれながらにして、だれかを勇気付ける表現者だったのです。

  • 園生やスタッフが、黙々と制作中
    園生やスタッフが、黙々と制作中
  • 園生のお一人が解説してくださる
    園生のお一人が解説してくださる


幸福は、日々の中に。

しょうぶ学園の日々を追った映画、「幸福は、日々の中に。」が近々公開されます。しょうぶ学園のパーカッショングループである「otto & orabu」をはじめとする、学園で生活する園生の日々をおなじ目線で追いながらも、観ていくうちに、ノーマル、アブノーマルってなんだ?健常者とそうでない人たちの境界線ってなんだ?という問いが、ふつふつと観る側に湧き出てきます。決定的に理解できることは、「健常者も、障害をもった人も、同じ方向を向いている」、つまりは自分の幸せを実感できる場所を求めている、ということ。その幸せは、どの人間も同じ、だれかとつながったり、自分の好きなことに没頭したり、食べたり、寝そべったり、狂うほど踊ったり、大きな声で歌ったり、そういうこと。そういう人間の根底にある、単純な正解に、はっと気づくのでした。

映画の中で、福森伸さんがふともらします。「彼らはガンだよ、って言ってもわからない。病院に行ってモルヒネ打って痛くなくなった、治って良かったと言いながら死ぬ。『僕たちはどうなんだろう』健常者はそうやって、鏡のようにみる。でもそれもずるいって思う。本当にシンプルにそのままを見ればいいのに。ずる賢いよね。」 たしかに私たちは、なんて、ずる賢い。この映画もそう。映画を通して知るのは、彼らの日常でありながら、自分自身なのです。

工房の室内も、まるごとアートに
工房の室内も、まるごとアートに


小さなエシカルブランドを経営する私を温かく迎え入れてくれた、福森さんご夫婦、職員のみなさま、そして園生のみなさま。ありがとうございました。最初から最後まで写真を撮ってくださった相野さんにも感謝いたします。VEGANIEがどのようにしょうぶ学園とコラボレーションができるか、目下、企画中です。

それまでに、たくさんの方に、しょうぶ学園のドキュメンタリー映画「幸せは日々の中に。」を観て頂きたいと思っています。2016年7月公開だそうです。詳しくは、以下のホームページから。「世の中の体温をあげるひと」第1回は、しょうぶ学園のスタッフ、園生の皆さんでした。

園長の福森伸さん、順子さんと
園長の福森伸さん、順子さんと


>> 鹿児島市社会福祉施設しょうぶ学園
>> 映画『幸福は日々の中に。』

(著者:Chiaki)